第22話  オーストラリアへ

 タイからマレー半島を南下しシンガポールに着いた私は、バンコクで買った航空券をカウンターに差し出した、と、職員が、申し訳御座いませんがあなたのお名前は今日のフライトには入っておりません、と言うではないか、そんなはずはない、これこの通り切符には記載されているではないか、もう一度よく調べてほしいと職員に伝えると、職員は切符を持って席を離れた、暫くすると職員が戻り、まことに申し訳御座いませんが、お席に空きも御座いませんので、ファーストクラスで宜しければお乗りいただけます、と言う、まことに申し訳御座いませんどころか、私に文句も何もない、初めて乗るファーストクラスだ。

 左の写真がその時の物だ、この時の格好は良く覚えている、半袖シャツでジーンズ素足にビーチサンダルだった。
 赤い搭乗券を胸のポケットに入れて、どうだファーストクラスだぞ、と、待合室の椅子に踏ん反りかえっていた、が、これも搭乗するまでの間だけだった、搭乗が始まり座席に着くと、もうその元気は萎えてしまった、一目見て私と周りの人達とでは人種が違う、今から30年も前のファーストクラスだ、居心地の悪い事この上ない、スティワーデスのサービスも私に対するイヤミかと思うほどイジケテしまった。

 途中バリで給油の為着陸し、空港内待合室に出た時はホッとした、もう2度と自分からはファーストクラスを利用しないぞと決心し、その決心は今だ守り続けている。

 (余談)その後、今までファーストクラスに乗った事はないし、乗せられた事もない、ビジネスクラスにまわされた事は何度かあった、座席で思い出すのは、タイでプロペラ機に乗った時の事だ、機種は何だか知らないが、あの時も席がなかった、タイ語が少々喋れたので、どうにかしてくれ、なんなら荷物と一緒でも構わないし、立ち席でもいい、などと冗談交じりでの交渉の末、パイロットの後ろの席でよかったらという事になった、今の大型機は外から見ると地面に水平のように見えるが、その飛行機は角度がある、飛行中(水平時)のパイロットの座席の位置だと、滑走路(?)が良く見えないからか、離着陸の時にはパイロットの座席が30Cmぐらいかそのぐらい持ちあがるようになっていた、今のはどうなんだろうか、私の座った席は、進行方向に背を向けるかたちになり、離着陸の時には何だか気持ち悪かった。

 待合室で待っていると、トラブルがあり今日は飛べないという事になった、明日になると言う、こんな事は初めての経験だったので、どうしたらいいのか判らない、取り敢えず、航空会社が手配してくれたホテルへ送ってもらった。
その時の、回収をうまくかわした記念品が下の写真の物だ。

 思わぬバリでの一泊のプレゼントに観光をしない手はない、市内を観光して回った、夜はホテル内でバリのダンスなど観ながらの夕食、ついでにタバコも1カートン買った、全てサインでだ。
 次ぎの日、飛べるとの事で、チェックアウト、お金を払う、払わないで揉めた、私は私のせいではないのだからガルーダに払ってもらえの一点バリ、スッタモンダしていると、外にパイロット達を送迎するマイクロバスが見える、丁度いいや、私は荷物を持つと、「サヨナラ」と言ってバスに乗った、パイロット、スティワーデスも全員乗り終わっていたらしく、私が航空券を見せ、シドニーへ行くんだと言うと、納得したらしく、一人が何か言うとマイクロバスはすぐ走りだした、飛行機が飛び立つまでどうなるか心配であったが、何事もなく飛行機はバリを後にした、この時はファーストクラスではなかったことも私をホッとさせた。

 ?ホテルではその後、どう処理したのかは知らないが、あまりにもひどい事をしてしまったと思う、ホテル代は航空会社が払うべきであるが、観光、タバコ代まで踏み倒してしまった、1970年5月25日の事だ。
 今、請求していただければ払う用意はある、ただ利息だけは勘弁してほしいのと、もう時効であろうと考えているので、笑って済ませていただけるものと思う。

 シンガポールからバリを経由しシドニーまでガルーダ、そこからメルボルンまでアンセットという航空会社の飛行機に乗り継ぐ事になっていて、その手配もガルーダがやってくれていた。
 シドニー空港に着き、乗り継ぎカウンターを探した、ようやく見付けて切符を差し出すと、カウンターのお姉さんが手にした無線機に向かって何か叫んだ、同時にカウンターを回り私の手を取ると、急げ!と私を建物外に引き出す、そのままお姉さんに引きずられるように空港内を飛行機に向かって走った、私より20Cm以上背が高いと思われるお姉さんに引きずられて行くアジア人を見た人は何事だろうと思ったに違いない。
 飛行機にはタラップではなく、梯子車の様な車が着けられていた、その梯子をハアハアいいながら上り機内に入ると、全員の目が私を注視している様で恥ずかしかった。

 すぐに離陸、無事メルボルン着。

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