第14話 羊が睨んでいる

 来る時にパキスタン・イラン国境では散々な目にあったので今度はイランからアフガニスタンへ抜ける事にした、イランのメシェッドからアフガニスタンのヘラートへ入ったのは12月11日だった、そこから我々はアジアンハイウエーをバスでカンダハル、そして首都カブールへと向かった、しかし当時のアジアンハイウエーとは名ばかりであった、荒野(「第6話、なんだら砂漠」みたいな)の中に川が流れている、橋がないので、普段は水など流れてはいないのだろう、そういう所にさしかかると乗客全員バスから降りて、ジャブジャブと対岸まで歩きだ、長靴なぞはいていないから素足で渡る、その水の冷たい事、乗客達は文句も言っていないようだ、バスが無事渡りきれればいい、中程で止まったら大変だ、例の屋根の荷物を降ろし、対岸まで何度も水の中を歩く事になる、挙句のはてには男達全員でバスを押す事になる、まったくバスを押す為にバスに乗せてもらっているという感じだ、乗客がいなければあのバスは目的地には到底着かない。 

 アフガニスタンは物価の安い国だった、一日1ドルあればおつりがきた、ホテルと3食でだ。
 シチューが旨かったので毎日のように食べた、ある時、作っている所を見せてくれと言ったら、こっちへこい、と店の奥に案内された、奥の調理場(?)には何人かの男が働いていて、コンクリートの床には羊が解体されている、およそ調理道具とは縁のなさそうなものばかりだ、洗面器に金ダライといったところか、その金ダライの中に解体された肉や内臓が放り込まれている、洗面器の中には調理された物が入っている、すみに石油コンロがあって、中華なべみたいなのがのっている、中を見て驚いた、毎日のように食べているシチューだ、その真中にドンと羊の頭がありこちらを見ているではないか、それにもめげずその後もシチューは食べ続けた。

 

 

 カブールから西パキスタンのペシャワルまでの切符。
 

 イラン・アフガン国境あたり、これから暑い国へ向かっているというのに毛皮のコートなど買っている、まだ阿片が効いているようだ。

アフガニスタンの街角で

1972年10月
カブールのホテルの屋上にて、
どうもこの頃、危ない事をしていたらしい。

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